忘れな草の空の色
2006年 4月 4日
日本から花の便りが届くこの頃、こちらにも少しずつ遅い春がやって 来た。
特別に長かった寒さのせいなのだろうか、咲き出してきた水仙の花は とても小さい目だ。
それでもようやっと訪れてくれた春に気持ちも一息というところ。
早朝のジョギングも冬のユニホームから合着用に変えた。
何時もの公園にも春の色が漂い始めた。
こげらの木をつつく音は前にもまして大きく聞こえるし、あひる達の 雌を巡っての争奪戦はすさまじい。
小道迄出てがーがー騒いでいるが、私の顔を見るなり全員が大慌てで よちよちと近くの水の中へ避難して行く。
これは毎年の恒例行事だ。
からすが乾燥した草を咥えてどこかに運んで行く姿も忙しそうだ。
先日の朝の事だった。
ジョギングへ行くのでエレベーターに乗った時、ミスター。ハンと一 緒に乗り合わせた。
彼は昔経済省に勤め、現在は年金生活をされているインドネシア生ま れの中国人だ。オランダ人の奥さんと二人暮らしをされているのだ。
温厚な彼が非常に怒った口調で話かけてきたのだった。
それによると、廊下に出してある花鉢が誰かに盗まれたとのだと言う 。今度で2度目なのだそうだ。
そして、今度は足の悪い奥さんの車椅子のクッションを誰かが盗んで 行ったのだというのだ。
たて続けに3度もの嫌がらせにミスター。ハンの怒りが爆発してしま ったところに私が出合ったのだった。
長年このフラットに暮らしているが、こういう事は以前起きた事が無 かったと言う。
確かに、私のあの1月以来のゴミ事件や犬の首輪事件から想定してみ てもこの1,2年の間に誰か精神を病んだ人がここに引っ越して来たとし か考えられない。
つい先日も廊下に梨の食べかすが捨ててあるのを夫も見て嫌だなと腹 を立てていたし、昨日はまたガムが捨てられていた。
一体誰なのだろう、と推察するけれど、私の推理はマイノリティーの 人間がマイノリティーにターゲットと絞って居るとしか考えられないのだ 。
それは、何らかの差別を感じる人間が自分よりも弱い立場と分かる者 に向かって取る行動なのだが。
それにしても、普通の精神の人間の取る行動とは考えられないが。
それを夫に言うと、夫は、「まさか!?」と言い放ったけれど。
ミスター。ハンも私も外見の東洋人と言う点では一致しているマイノ リティの人種ではないか。
もちろん彼の場合はオランダの国籍で、言葉も全く不自由も無いわけ だけれど、それでもそういう事をする人間の目からすれば、それは関係無 い事なのだから。
何時も出かけるスーパーマーケットの店員の若い女の子ですらも、私 が何か質問しても相手によってはわざとに私の言っている言葉の意味が分 からなかったふりを装ったりするなんて事は日常茶飯事だ。
彼女にしてみれば、安い給料で使われていて、その日は面白くなかっ たかもしれないし、いらいらしていたかもしれないし、そこにたまたま私 が来ただけの事だったに違いない。そして相手が私だったから、丁寧に相 手などする必要など無いと頭の中で計算したのかもしれない。
そういう事をあちこちで遭遇しているうちになんと住み心地の悪いオ ランダなんだ、と思う日もあるが、私は自分が強靭で、打たれてもまた起 き上がれるバネを持っている人間だった事に感謝もする。
そう言えば母が「天に向かって唾をはけば、それが自分に落ちて来る ものだよ。」と私が子供の頃に言っていた事を思い出す。小学校の 2,3年生のその頃の私には、その意味が一体なんなのか分からなかった けれど、昔の親はそうやって子供にいろいろな事を教えてくれたものだっ た。
こんな小さな身近な場所にも沢山の小さな不愉快な出来事が日々起き ている。
日本でもあちこちでいろいろな事で神経を尖らせ、その度に人間不信 になり、益々自分中心にならざるを得ない世界になっていく兆候にあるよ うだけど、人間のいる所、摩擦あり、問題あり、憂いあり、それらから逃 れることは、ただ自分が賢くなるしかない。
この時期になると東京の友達から桜が咲きました。何時帰りますかと 尋ねてくる。
今年は残念な事に大好きな桜の花に間に合わない。
でも、もうすぐに帰ります。大好きな日本の空の下に。エネルギーを 調達に行きます。
4−4−2006